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内沼晋太郎 「本屋の旅」 第3回:六畳書房「本屋のない町に、本屋をつくる」

PROFILE 内沼晋太郎

ブック・コーディネイター。2012年、東京・下北沢にビールが飲めて毎日イベントを開催する新刊書店「本屋B&B」をオープン。著書『本の逆襲』(朝日出版社)ほか。

2月某日

珍しく、大雪が降っているらしいということを朝、武藤さんのtwitterで知った。北海道はどこでも雪深いと思い込んでいたけれど、それはどうやら道外の人間によくある勘違いで、武藤さんが店番をつとめる「六畳書房」のある浦河町では、積もるほどの雪はめったに降らない。この日は例外だった。飛行機にも影響が出て、新千歳空港に遅れて着くと、札幌「くすみ書房」の久住さんが迎えてくれた。

浦河町はつい先日まで、本屋のない町だった。かつては地元の本屋があったが、チェーン書店が参入してきたことで廃業し、そのチェーン書店ものちに撤退した。そして浦河から本屋は消えた。「チェーン店はこれだから云々」というのも、よくある話だ。けれど、実際に聞き、現場を見ると、彼らもそれほど悪者とも思えない。それはビジネスであり、さまざまな事情で、仕方なくそうなった。

ぼくはそのことを一年ほど前、久住さんから聞いた。「浦河のような本屋のない町に、あたらしく本屋をつくることは可能か、というテーマで講演をすることになったので、相談に乗ってほしい」という旨のメールを頂戴し、東京でお話した。相談といっても、大きな課題は流通だった。ぼくの知っているようなことは既に久住さんもご存じで、ご期待に沿うような話は大してできなかったように思う。北海道の市町村のうち、本屋がない市町村は1/3を占める。

その後、紆余曲折を経て昨年11月、浦河町に「六畳書房」がオープンしたことを知った。ご紹介いただきたい旨を久住さんに伝えると、「ちょうどそろそろ行こうと思っていたので」と、同行してくださることになった。札幌から浦河までは、車で約3時間かかる。

札幌「くすみ書房」の久住さん。車の中でもたくさんのお話をしてくださった

「六畳書房」の武藤さんは、総務省が推進する「地域おこし協力隊」という制度で、浦河町のまちづくりに携わっている。あるとき「くすみ書房」が行ったクラウドファンディングで、10万円で久住さんを講演に呼べるというリターンを見つけた武藤さんは、町民から3000円ずつ集め、久住さんに「浦河に本屋を作るって可能ですか?」というテーマで講演を依頼した。2014年2月、そこで久住さんが提案した「コミュニティ本屋」が、いまの「六畳書房」のベースとなった。

「六畳書房」に着いたのは、日も暮れたころだった。雪に埋もれたのはこの日が初めて

その講演で久住さんは、次のような七ヶ条を提案した。

1.利益を求める商売として考えるのではなく「浦河に本屋が在る」ことを目的とします。
2.人が集まる「コミュニティ本屋」という新しい発想の本屋を作ります。
3.浦河のこどもたちに上質な本を提供できる、町民が自慢できる本屋を目指します。
4.開店資金、仕入代金等は借金、リース、買掛金にはしないで、すべて現金で決済します。
5.資金調達は町民の出資を検討してください。
6.賃料がゼロの場所を捜してください。
7.小さくスタートし、成長する本屋にしていきましょう。
(『出版ニュース』2015年10月下旬号より)

その7月、浦河町の主婦の方々が主催した「うららべつふぇすた」のゲストとして、くすみ書房が実験的に本の出張販売を行ったところ、400冊持参したうち、当日に100冊以上売れた。そして残り300冊を数日後、武藤さんが管理していたコミュニティスペース「かぜて」で販売してみたところ、ここでもまだ100冊弱が売れた。浦河町でもまだ、本は求められている。久住さんと武藤さんは、そう確信した。

9月に「北海道ブックフェス in 浦河」を開催し、50人以上から30万円以上の寄付金を集めた。その後も少しずつ寄付を集め、11月、その資金を最初の在庫の仕入に充て、「六畳書房」をオープンした。

店内に入ってすぐ、左側手前の棚。POPが楽しげに並ぶ。寄付された古本も一部扱っている

新聞記事になっていたので、売り場の風景は、ぼくも事前に写真で見ていた。しかしイメージしていたより、蔵書量はずっと多い。久住さんの車から、ダンボール4箱分の本が降ろされる。一社の小さな取次会社を使いつつ、いくつかの出版社とは直接取引をして、その他の本は「くすみ書房」から仕入れる、という形をとっている。今回の来訪はその納品分も兼ねている。

児童書の棚は子どもの手に届くよう、低めの位置にある

当初、久住さんがモデルとして提案したのは、開店資金として500万円を集め、20坪の物件を見つけ、月に200万円の売上を上げる、というプランだった。しかし「地域おこし協力隊」としての仕事もある武藤さんは、自分ひとりで小さくはじめられるやり方として、まずは「かぜて」の一角で週1回だけオープンする、という形を考えた。

店内風景。真ん中奥がレジ。武藤さんは大抵ここに座っている

「13時から22時までの営業時間。売れた分を数えて、次の日にまとめて発注したり、振込したりといった事務作業をする。週のうち1.5日くらいです。本棚や机などの什器、こたつなども、すべてもらいもの。あくまで無理をしない形です」と武藤さん。

店内に貼ってあった「六畳書房」の案内チラシ。一口店長の申込もこの用紙で行える

「六畳書房」への寄付は、「一口店長」という制度のうえに成り立っている。一口5000円で、自分がおすすめする本を一冊指定すると、その本が店頭に並ぶというものだ。「ぼくはただの店番という位置づけ。みなさんが店長であり、かつ大抵の場合は、同時にお客様でもあるんです。あの本○○さんが買っていったよ、みたいな会話が、浦河に暮らす一口店長同士のコミュニケーションのきっかけになっています」と武藤さん。ちょうどそこに、近所に住む一口店長の女性がいらしていた。「そうなんです、本について話せる機会ができてうれしい。それまであまり話さなかった人が、実は本を読む人だった、ということがわかって盛り上がったり」と言う。

店内で行ったトークの模様。左から筆者、久住さん、武藤さん

その夜はぼく、久住さん、武藤さんの3人で小さなトークイベントを開催した。「浦河はとてもいいところですよね。豊かな自然を駆け回る馬がいて、目の前に豊かな海が広がる。『大黒座』という老舗の町の映画館もある。六畳書房に行って、馬に乗って、映画を観て、海の幸を食べる旅。札幌からバスツアーを組んでもいい。武藤さんをスターにして、浦河モデルを世の中に広めたい」と、久住さん。「地域おこし協力隊」の任期は3年だ。武藤さんは3年で帰ってしまうのか、それともずっと浦河町にいるのか?「六畳書房」はどうやって継続するのか?「できれば仕事をみつけて残り、六畳書房も続けたい」と武藤さん。様々なアイデアが出て、話は尽きない。トークはUstreamで中継も行っていた。北海道のはずれにいることを、しばし忘れた。

浦河町を貫くメインストリート、国道235号を曲がってすぐ「大黒座」はある。「六畳書房」からは浦河駅をはさんで逆側にあたる

翌朝、久住さんと武藤さんと一緒に、映画館「大黒座」へ。かつて『映画館(ミニシアター)のつくり方』という本で読んでいたことに、訪れて初めて気がつく。この1918年から続く老舗の映画館も、なんと浦河にあるのだった。支配人の三上雅弘さんが迎えてくださる。

映写室にて、「大黒座」の歴史や機材について話してくださる三上さん。今はデジタルで映しているが、古い映写機もきちんと動く

もちろん東京でも、同じ映画を観ることができるし、同じ本を買うことができる。けれど、「大黒座」の座席とスクリーンで三上さんが流す映画を観ることや、「六畳書房」の棚で見つけた本を武藤さんから買うことは、浦河に来ないとできない。映画も本も、それは同じ体験のようで、少しだけ違う。場所があり、人がいて、それとともにした記憶がぼくたちの頭の中に残る。

お客様がまったく来ない回もある。運が良ければ、この大きなスクリーンを独り占めできる。なんたる贅沢

名残惜しさを、また来ようという気持ちに替えて、札幌へと向かう。

4月某日

武藤さんは3月に「地域おこし協力隊」を退職し、なんと浦河町議会議員に立候補した。この原稿をまとめるのも予定より遅れていたので、せっかくなので結果を待つことにしていた。

武藤さんがFacebookにアップしていた、一番乗りで選挙ポスターを貼った時の写真

そして今日、当選したことを、Facebookで知った。これから「六畳書房」はどうなるのだろう。さっそく、武藤さんに電話した。

「同じように続けます。手伝ってくれる人が少し増えたので、代わりに開けてもらうこともあるでしょうけど、基本的には、これまでどおり週一回、ぼくが開けます」

ほっとした。いわば武藤さんは、本屋の店番であると同時に「会いに行ける議員」になったというわけだ。町の人たちは「六畳書房」に行き、これまで通り読んだ本や買った本の話をする。そしてときには、これからの浦河町について、真面目に話をするのだろう。「六畳書房」が、本屋のない町に暮らす人々の注目を浴び、この小さな動きが全国に波及することを願っている。

六畳書房

北海道浦河郡浦河町堺町西4丁目4-40
takuya@bouken.org
営業時間:13:00~22:00
営業日:月(定休日ではありません!)

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