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内沼晋太郎 「本屋の旅」 第1回:ジュンク堂書店那覇店「沖縄に来て県産本を買わないなんて」

PROFILE 内沼晋太郎

ブック・コーディネイター。2012年、東京・下北沢にビールが飲めて毎日イベントを開催する新刊書店「本屋B&B」をオープン。著書『本の逆襲』(朝日出版社)ほか。

2014年11月某日

11月だというのに、全身で夏の香りがした。肌で感じる香りというのがあるのだと、飛行機をおりたとたんに知った。白くて、丸くて、ところどころ茶色く錆びている。空港とその周りの建物は、夏のプールを思わせた。葉から漏れる光さえ違うと感じたけれど、生えている植物が違うだけかもしれない。沖縄には初めて来たので、きっとごくありふれたことを感じているはずだという自覚もあった。予約していたレンタカーを借りた。

道は広く、空も広く、いかにも南国風の植物が続く

「沖縄の出版社がつくる沖縄県産本は、編集者も印刷会社も書店も読者も、基本的に沖縄県内にいる(中略)全国流通を前提にしないので本のつくりかたが自由で、それゆえの面白さも、ときに厄介さもある」。

沖縄には沖縄の、軽やかに完結した「出版」がある。そのことは、この宇田智子さんの本『那覇の市場で古本屋』(ボーダーインク)で知った。

宇田さんは、東京の大学を出て「ジュンク堂書店」に就職。池袋本店の、人文書担当として勤務する。たまたま「沖縄県産本フェア」に携わったことがきっかけで、沖縄店開店にあわせて異動を自ら志願して移住。その数年後「ジュンク堂書店」を退職して、いまは沖縄で「市場の古本屋ウララ」という古本屋をやっている。のだけれどそれは(第2回で書くので)さておき、読んでいる途中からぼくは沖縄に行くことを決めていた。

持ち歩いたぼくの『那覇の市場で古本屋』はボロボロになった

そうしてたどり着いた「ジュンク堂書店那覇店」は、那覇の中心市街地、沖映大通り沿いにある。沖縄で一番大きな新刊書店であり、ここに暮らす多くの本好きが「ジュンク堂にならあるはずだ」と探している本を求めて、大抵暑いなか汗を拭いやってくる。

『那覇の市場で古本屋』によるとこの「ジュンク堂書店那覇店」が開店した日、宇田さんが最初に受けた問い合わせは「アガリウマーイの本はありますか?」だったという。「アガリウマーイ」は「東御廻い」で、琉球民族の祖先といわれる「アマミキヨ族」が住みついたとされる聖地を巡拝する旅のこと

公式ウェブサイトにはこうある。「2009年4月24日にオープンした日本最南端のジュンク堂書店です。歴史ある島にふさわしく、1万5000冊を超える沖縄関連本のコーナーは、とりわけ高いご支持をいただいております」。

ぼくが経営している下北沢「本屋B&B」の蔵書は7000冊程度なので、「1万5000冊を超える沖縄関連本のコーナー」はそれだけでB&B2軒分(!)ということになる。これからこの連載では「東京ドーム○個分」さながらにこのB&Bを単位として使うことになるだろうけれど、それはさておき店に入ると、目に入ったフロアガイド。2階部分の一番最初に「沖縄本」と書かれていることからも、求めて訪れる人の多さがうかがえる。

「D-naha」という建物の地下1階から3階までを占める。うっすら自分が映り込んでいますがごめんなさい

「県産本以外にも、沖縄に関連する本はすべて置いています」と、店長の細井実人さんは言う。「どこ産」であるかにはこだわらず、東京の出版社の本であっても、とにかく沖縄に関係があればこのコーナーに集めている。担当しているのは、香川紀子さん。お2人とも、沖縄に所縁があるわけではない。たまたま別のジュンク堂書店から異動してきて、この店で働くうちに沖縄に魅せられるようになった。

左が店長の細井さん、右が人文書と沖縄本を担当している香川さん

沖縄本を扱うのには、苦労もある。タイトルが分かったとしても、どこから仕入れられるのか分からない。当然、東京の大手取次からは入らない。沖縄の取次もあるが、ほとんどは直取引である。「お客様のほうが情報が早いんです。お客様から情報をいただいて、調べて、仕入れる。あるいは、沖縄の出版社は横のつながりが強いので、別の出版社の人と話をしていて、知らない新刊の情報が入ったり」と香川さん。

取引先が何社あるのかと聞くと「わかりません。個人もたくさんあるので。少なくとも数百社はあります」。

古本屋から仕入れている本。出版社がなくなって、その在庫を古本屋がまとめて買い取るというのはよくあることだが、まだ需要があるので、その買い取った古本屋からまとめて仕入れている。つまり古本だが、新品である。他の場所ではまず見られないケースだ

「そもそも、境界があいまいなんです。出版社といっても、自分で書いた一冊しか出していない、というようなところもあるので」と細井さんが続ける。

たとえば東京で、自分で本を書いて自費出版したから扱ってほしいとジュンク堂に持って行っても、採用されるのはひと握りだろう。しかし沖縄ではそうではない。「基本的にお断りはしません。お友達の方が買いに来てくださるケースも多いですし、その方々はジュンク堂を大事にしてくださるお客様でもあるので。特に沖縄の歴史や文化について書かれたものは、読者もたくさんいますしね」。当然それらの本は、Amazonで検索しても見つからない。品切れも早く、どこに在庫があるかもわからない。誰も全貌を把握できない。

「沖縄本新刊・話題書」のコーナーの多くを歴史の本が占める。伊敷賢『琉球王国の真実』(沖縄ブックサービス)は県産本で、著者初めての著書。戦国時代の本でわかりやすいものが他にあまりなく、よく売れているという

普通、地方出版社の本というと、その土地の歴史や風俗をまとめた本や、ガイドが中心だ。しかし宇田さんの本には「歴史、民俗、思想、社会、宗教、文学、言語、芸術、芸能、自然、健康、料理、スポーツ、写真集、絵本、マンガ、雑誌。新刊書店の全ジャンルがあると言っていい」と書かれていた。いったいなぜ沖縄だけ、これほど幅広いジャンルの、たくさんの本が出ているのだろう。

香川さんは言う。「一番売れるのはやはり歴史の本ですけど、実用書もよく動きますね。料理とか、ガーデニングとか。植物が全然違いますので」。なるほど、気候が違うから、植生も違う。よってガーデニングも違う。できる野菜も違うから、よって家庭料理も違う。東京の出版社が出した実用書は、ときに沖縄においては実用的でないのだ。いくつかのジャンルにおいて少しずつ、そのように必要な中身が違う。

開いているのは『琉球ガーデンBOOK』(ボーダーインク)の「ブーゲンビレア」の項。熱帯性の低木だ。「種類もそれほどないので、これは定番としてよく売れます」と香川さん

また、もちろんその背景には、かつて琉球王国という独立国家であったことや、1972年までアメリカの占領下に置かれていたことなど、政治的にやや複雑な沖縄の歴史がある。出版物を輸送するにあたっての、物理的な距離もある。そしてなにより、住んでいる人々の郷土愛も強い。そこに県産本という、ひとつの独立した「出版」があることも、よく考えてみたら不思議ではないというわけだ。

お2人に「沖縄を旅する人におすすめの一冊を、と言われたら何を紹介しますか」と聞いてみた。細井店長が選んだのは武智方寛『沖縄苗字のヒミツ』(ボーダーインク)。「沖縄の人に会って自己紹介をしたときに、聞いた苗字を通じて、沖縄の歴史に触れられるようになるのが面白い」
香川さんが選んだのは吉田直人『値段でわかる沖縄庶民ライフ』(イカロス出版)。「県産本でもないし少し古い本ですが、沖縄の暮らしをユーモアたっぷりで理解することができます」

ひと通り案内していただいた最後に、近隣に他にどこか面白い場所はないか、と伺った。細井さんは「このあたりは昔から墓地で、ビルの裏とかに少し入っていくとすぐ森みたいになっていて、その中に古いお墓があったりするんですよ。ニューパラダイス通りを入ったところに『Bar土』っていう良いバーがあるんですが、そこを通り過ぎてさらに奥に進んでいくと山道になっていて、迷い込むと怖いですよ、ハブもいるし」とまるで他人に勧めにくいことを、香川さんは迷った末に「やはり市場ですかね」と教えてくれたが、いつの間にか夜も更けてやはり墓地には足が向かないし、市場には翌日行くことになっていたので、自分が気になった店を回ることにした。

沖縄の老舗のミニシアター「桜坂劇場」には一度来てみたいと思っていた。映画は観なかったけれど、ショップやカフェだけでも十分に観る価値あり
たまたま入った国際通り沿いの居酒屋「じんじん」は何を食べても本当に美味しかった
細井さんお勧めの「Bar土」も気になったが、老舗の「Gold Dust」に。若いバーテンダーはまだ沖縄歴一年の移住組で、昔からバーで働いてみたくて、沖縄でも暮らしてみたかった、だから沖縄のバーで働くことにした、という
最後は、こちらも行ってみたかった久茂地の「Parker's Mood Jazz Club」に。こんな金額で生演奏で飲める店が近所にあったら間違いなく通ってしまう

買った何冊かの本を携えてひとり歩き、ページをめくりながら酒を飲む贅沢。もっと早く来なかったことを悔やんだ。

ジュンク堂書店 那覇店

〒900-0013
沖縄県那覇市牧志1-19-29D-NAHA B1F-3F
TEL.098-860-7175
営業時間:10:00-22:00
定休日:無休

~内沼晋太郎 「本屋の旅」~
プロローグ:なぜ本屋の旅か
第1回:ジュンク堂書店那覇店「沖縄に来て県産本を買わないなんて」
第2回:市場の古本屋ウララ「それは小さいからこそ」
第3回:六畳書房「本屋のない町に、本屋をつくる」
第4回:MUJI BOOKS キャナルシティ博多「お客様とつながるためのことば」

 
本ページ内掲載の内容は2015年1月現在のものです。

 

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