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JTBパブリッシングの出版案内

「日常と食のコト」でくらしを楽しくするライフスタイルマガジン「ケノコト」と「たびのたね」のコラボ企画記事。ご当地本からみえてくる、地域の日常や文化、知られざる魅力をご紹介します。第6回は、沖縄県のむぎ社発行『家庭でつくる 沖縄の漬物とおやつ』をひもときます。

きらびやかに彩られた豪勢な料理や、ホテルのワンシーンを思い起こさせるかしこまった料理もいいけれど、心に響く、大切な人と楽しみたい料理は、毎日食卓に上がるような飾りけのない家庭の味だったりもします。

台所仕事にいそしむ母の背中。日本の南の島、沖縄の食卓からも、そんなぬくもりを感じることができます。
沖縄県のご当地レシピ本『家庭でつくる 沖縄の漬物とおやつ』(むぎ社発行)につまっていたのは、ゆったりと過ごすおばぁたちの、丁寧な手しごとと愛のあふれる優しさでした。
 

ページにつまったおばぁの優しさ

この本を開くとまず見えてくるもの、それは料理手順ごとのわかりやすいイラストと、とても丁寧な注釈文。
材料や作り方、料理写真は、ほとんどのレシピ集に載っていますが、この本はまるで「こうするといいよ。」「もうちょっと多くてもいいかもね。」なんて、隣におばぁがいて手取り足取り教えてくれているよう。
 

例えば、「大根のウッチン漬け」というレシピのページ。
「ウッチン」とぱっと聞いてイメージできる方は多くないと思いますが、それはウコンのことで、別名ターメリック。材料の欄には括弧づけで「スーパーのスパイス売り場にある」と記述されています。
きっと、このレシピをまとめるなかで「ウッチンてなに? 探すにしてもどこにあるの?」なんて声があったのかもしれません。実際の作り手の立場に寄り添う温かみを感じられますね。
 

また、ときおり本のなかに現れる「ありんくりん」と書かれた枠。この枠の中には、そのページのレシピに関する小ネタが紹介されています。
「ありんくりん」とは沖縄の方言で「あれこれ」という意味なのだとか。レシピだけでなく、それにまつわる沖縄の文化に触れられるところにも、おばぁの郷土愛が垣間見えるのです。
 

沖縄の漬物文化とその真髄

タイトルにあるように、沖縄の漬物レシピが多数掲載されている『家庭でつくる 沖縄の漬物とおやつ』。本書はそのなかで、沖縄人の舌に残るふるさとの味「地漬(ジージキ)」が沖縄漬物文化の真髄だと語っています。
沖縄の砂糖といえば黒糖ですが、その黒糖を使って甘く仕上げ、見た目が真っ黒な漬物のことを「地漬(ジージキ)」といいます。
 

旧正月が終わって作りたての黒砂糖が手に入るころ、沖縄の主婦は一年間のジージキ作りをするのだそうです。
冬は大根、初夏はにんにく、夏場はゴーヤーというように、季節とともに漬けられる伝統の味。
これらは早朝の軽食や、客人をもてなすときの茶うけの一品として重宝されてきたのだとか。

青く澄んだ海を眺めながら、目覚めにいただくジージキ。口に含むと広がる黒砂糖の濃厚な味わいを想像するだけで、なんとも贅沢な温かい気持ちに包まれてしまいます。
 

沖縄のもち文化とそこからの工夫

日本の年中行事やお供え物には欠かせない大事な食材、おもち。古くからの沖縄の文化においても、それは変わりません。

「もち重」をご存知でしょうか。その名の通り、もちだけが重箱につめられたもちのお重のことです。
沖縄では、正月や彼岸など季節の行事やお祝いの席で「もち重」を準備しもちを食べる風習があるのだそうです。
 

一年の様々なシーンでもちが食べられるからこそ、そこで残ってしまったもちをもてあましている人が多いのかもしれません。
この本には、ちょっとした工夫でもちを粋なおやつとして変身させるレシピがたくさん紹介されていました。なかには「ピザもち」なんて気になるレシピもあり、余ったもちの再利用どころか、最初からちょっと多めにもちを準備してしまいそうですね。
 

重箱の隅から生み出されたおばぁたちのアレンジレシピは、生活目線の知恵の宝庫。
このようなレシピの紹介に先だち、「残さず食べきる」というのがウサンデー(供物をいただくの意)の礼節だということも本書では語られています。
ご先祖様を思いつつ、家族のために、美味しく飽きなく味わえるようにと工夫され顔を変えていく料理たちには、まさに残り物の福がありそうですよ。
 

青く澄んだ空と広い海に囲まれ暮らすおばぁたちのレシピからは、その丁寧さ、優しさがページを超えて感じられます。

そんな温かみのある、飾らない沖縄の家庭の味を大切な人に伝えてみませんか?
大丈夫、この本がおばぁの代わりとなって、手取り足取り教えてくれますから。
 

『家庭でつくる 沖縄の漬物とおやつ』

発行:むぎ社
地漬け(ジージキ)に象徴される、黒砂糖を使った濃厚な味が独特の風味をかもし出す沖縄の漬物。さらに、もち・アガラサー・天ぷらなどの、沖縄独特のおやつのレシピを加えた合計七十四のレシピを収録しました。下ごしらえから仕上げまで、いつでも、どこでも、だれでも手軽につくれるカラーさし絵のレシピ本、第二弾です!

「ケノコト」

毎日の何気ない暮らしこそ大事なことがたくさん。ケノコトは日常と食をより楽しくするメディアです。ケノコトの“ケ”は、「食べる」や「糧」といった食(け)のことと「ハレとケ」のケ=「日常」を表しています。ケノコトのコンセプトは“ココのある暮らし”。ココとは個々(1人1人)、此所(色んな場所で)、小幸(小さな幸せ)。日常を彩るちょっとした幸せ。そんな瞬間が生まれるきっかけをつくること、それが「ケノコト」の役割です。

―ご当地本からひもとく「地域のコト」―
第1回『信州の発酵食』からみえる
“丁寧な暮らし方のヒント” >>

第2回『続・名古屋の喫茶店』からみえる
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第3回『京都珍百景』で知る、
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第4回『オキナワグラフ』で知る、
ガイドブックに載らない沖縄の姿

第5回『下仁田ねぎの本』からみえる、
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第6回『家庭でつくる 沖縄の漬物とおやつ』から感じる、
おばぁのぬくもりと島の飾らない家庭の味

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